いてくれなければだめだ。そうすればおたがいの力でなにかできるかもしれない。おまえたちはみんなしていっしょうけんめい、ぼくを助けてくれなければならない。わたしたちはおたがいにたより合ってゆきたいと思うのだ」
こういったわたしのことばが、残《のこ》らずかれらにわかったろうとはわたしも言わないが、だいたいの趣意《しゅい》は飲みこめたらしかった。かれらは同じ考えになってはいた。かれらは親方のいなくなったについて、そこになにか大事件《だいじけん》が起こったことを知っていた。それでその説明《せつめい》をわたしから聞こうとしていた。かれらがわたしの言って聞かせた残《のこ》らずを理解《りかい》しなかったとしても、すくなくともわたしがかれらの身の上を心配してやっていることには満足《まんぞく》していた。それでおとなしくわたしの言うことに身を入れて聞いて、満足《まんぞく》の意味を表していた。
いやお待ちなさい。なるほどそれも、犬の仲間《なかま》だけのことで、ジョリクールには、いつまでもじっとしていることが望《のぞ》めなかった。かれは一分間と一つ事に心を向けていることができなかった。わたしの演説《えんぜつ》の初《はじ》めの部分だけはかれも殊勝《しゅしょう》らしくたいへん興味《きょうみ》を持って傾聴《けいちょう》していたが、二十とことばを言わないうちに、かれは一本の木の上にとび上がって、わたしたちの頭の上のえだにぶら下がり、それからつぎのえだへととび回っていた。カピが同じやり方でわたしを侮辱《ぶじょく》したならば、わたしの自尊心《じそんしん》はずいぶん傷《きず》つけられたにちがいなかった。けれどもジョリクールがどんなことをしようと、わたしはけっしておどろかなかった。かれはずいぶん頭の空っぽな、軽はずみなやつだった。
けれどそうはいうものの、少しはふざけたいのもかれとして無理《むり》はなかった。わたしだってやはり同じことをしたかったと思う。わたしもやはりおもしろ半分木登りをしてみたかった。けれどもわたしの現在《げんざい》の位置《いち》の重大なことが、わたしにそんな遊びをさせなかった。
しばらく休んだあとで、わたしは出発の合図をした。わたしたちはどうせ、どこかただでとまる青天井《あおてんじょう》の下を見つけさえすればいいのだから、なにより、あしたの食べ物を買う銭《ぜに》をいくらかでももうけることが、さし当たっての問題であった。
小一時間ばかり歩くと、やがて一つの村が見えてきた。
びんぼう村らしくって、あまりみいりの多いことは望《のぞ》めないが、村が小さければ巡査《じゅんさ》に出会うことも少なかろうと考えた。
わたしはさっそく一座《いちざ》の服装《ふくそう》を整《ととの》えて、できるだけりっぱな行列を作りながら、村へはいって行った。運悪くわたしたちはあのふえがなかったし、そのうえヴィタリス親方のりっぱなどうどうとした風采《ふうさい》がなかった。軍楽隊《ぐんがくたい》の隊長《たいちょう》のようなりっぱな様子でかれはいつも人目をひいていた。わたしには背《せい》の高いという利益《りえき》もないし、あのりっぱなしらが頭も持たなかった。それどころかわたしはちっぽけで、やせっぽちで、そのうえひどくやつれた心配そうな顔をしていたにちがいなかった。
行列の先に立って歩きながら、わたしは右左をきょろきょろ見回して、わたしたちがどういう効果《こうか》を村の人たちにあたえているか、見ようとした。ごくわずか――と情《なさ》けないけれど言わなければならなかった。だれ一人あとからついて来る者もなかった。
ちょっとした広場のまん中に泉《いずみ》があって、木かげがこんもりしている所を見つけると、わたしはハープを下ろしてワルツを一曲ひき始めた。曲はゆかいな調子であったし、わたしの指も軽く動いた。けれどもわたしの心は重かった。
わたしはゼルビノとドルスに向かって、いっしょにワルツをおどるように言いつけた。かれらはすぐ言うことを聞いて、拍子《ひょうし》に合わせてくるくる回り始めた。
けれどもだれ一人出て来て見ようとする者もなかった。そのくせ家の戸口では五、六人の女が編《あ》み物《もの》をしたり、おしゃべりをしているのを見た。
わたしはひき続《つづ》けた。ゼルビノとドルスはおどり続《つづ》けた。
一人ぐらい出て来る者があるだろう。一人来ればまた一人、だんだんあとから出て来るにちがいなかった。
わたしはあくまでひき続《つづ》けた。ゼルビノとドルスもくるくるじょうずに回っていた。けれども村の人たちはてんでこちらをふり向いて見ようともしなかった。
けれどもわたしはがっかりしまいと決心した。わたしはいっしょうけんめいハープの糸が切れるほどはげしくひいた。
ふと一人、ごく小さ
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