、男へ向つて、訛《なま》りの多い英語で斯う呟いて見せさへしたのである――
「私、御飯を一杯につめ込んで了つたあとのやうなつまらない感じがしますわ。だつて貴方は何だか余り堅い事ばかり話すんですもの、それとも、他にお客様が居るので、態《わざ》とさうなさつてゐるの?」
彼の女の訛つた英語を、さう解釈したのは私のつまらぬひがみであつたらうか? 然し、この淋《さび》しい解釈は明らかに私を一種の苦渋と圧迫感へ誘ひ込んだ。仕方なしに私は立ち上つて、其の場を去らうと試みた。けれど、それを見て取るとウラスマル君の顔面には可成り烈しい困惑と憐愍《れんびん》に似た表情とが起つた。彼れは之《これ》から手風琴を弾《ひ》いて聞かせるから、もう少しこの座に居て呉《く》れと、さも私を慰撫《ゐぶ》するやうに囁《ささや》いて呉れた。
褐色をした手風琴のごく古いものが直ぐ其処へ持ち出された。ウラスマルは不器用な手でそれを弾かうとし初めたが、何故《なぜ》か其の楽器からは寒さうな風の音ばかりが発して、本統の快い響が出て来なかつた。女は素早い眼で、風琴の一部に破れた穴の大きなのを見出すと、誇張的な声で軽侮の笑ひを吐きつつ斯う
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