アリア人の孤独
松永延造

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)未《ま》だ

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)その後|成《な》る可《べ》く

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ]

※底本の本文中に使われている《》の記号は、ルビを表す記号と重複しているため、〈〉に置き換えました。
−−

       一
 私が未《ま》だ十九歳の頃であつた。
 私の生家から橋一つ越えた、すぐ向うの、山下町××番館を陰気な住居として、印度人〈アリア族〉の若者、ウラスマル氏が極く孤独な生活をいとなんでゐたと云ふ事に先づ話の糸口を見出さねばならない。彼れが絹布の貿易にたづさはつてゐる小商人だと云ふ事を私は屡《しばし》ば聞いて知つてゐたが、然《しか》も、彼れの住居には何一つ商品らしいものなぞは積まれてゐなかつたし、それに、日曜以外の日でも、丁度浮浪者の如《ごと》く彼れが少しも動かない眼に遠い空を見つめつつ、横浜公園の中を静かな足取りで、散歩してゐる所なぞを私は時々見かけたりしたので、そのため、段々と彼れについて次
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