のやうな独断を下すやうになつた――
「彼れが少くとも一商人であると云ふ事は、彼れの為替《かはせ》相場に関する豊富な知識なぞに照しても、充分推定し得る。然し彼れは今や恐らく破産して了《しま》つたのだ。」
私にそんな独断を敢《あ》へてなさしめた、もう一つ他の理由はと云へば、それは斯《か》うである。
彼れはその以前迄、一人だけであの旧風な煉瓦造《れんぐわづく》りの××番館全体を使用してゐたが、間もなく、建築物の大部分をシャンダーラムと呼ばるるアリヤンの一家族へ又貸しをして了ひ、自分は北隅に位置をしめた十二畳程もある湯殿へと椅子《いす》や寝台を移し、そこで日夜を過ごす事に充分な満足を感じてゐたのである。
元来××番館はその始めアメリカの娼婦《しやうふ》が住んでゐた建物なので、他の何《ど》んな室よりも湯殿が立派な構造を示してゐた。それは湯殿と云ふ名で呼ばれ乍《なが》ら、然も、半分は客間に適するやうな設計の下に造られたものであることが確かだつた。
先づ、其処《そこ》へ這入《はい》つて行くと、灰白色の化粧煉瓦の如きもので腰を巻かれた、暗い水色の壁が私の眼を打つた。天井はエナメル塗りの打ち出し
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