私は彼れの様子によつて漸《やうや》く察したので、自分の聞きたい話も要求せず、ただ時間が自然と流れるのを見詰めるより他仕方がないのを感じ出した瞬間である、ウラスマルはアツと発声すると共に、立ち上り、瀬戸物の敷きつめられた床をけたたましく走り出した。見る間に、彼は踏み台へ乗ると、例の窓から首を出して、純然たる印度語で、何かしらを外の方へ云ひ放つた。外からも直《す》ぐ答への声が聞き取れた。それはウラスマルの太い声に対比して、非常に細く、且つ音楽的であつた。
 軈《やが》て、ウラスマルはその短く太い首をめぐらして、私の方を見ながら、最も稀《ま》れな微笑を見せた。その顔色の中に、私は又しても彼れの烈《はげ》しい羞恥心を読む事が出来たので、非常な悔いを感じつつ、遂《つひ》に椅子から立ち上つた――説明するまでもない、私は「悪い場所へ来合せて了つた」と云ふ意識で、自分を悩まし初めたのである。
「いや、その儘《まま》、居て下さい。」と、ウラスマルは掌と掌をこすり合せながら、右方の眼尻《めじり》へだけ小皺《こじわ》を寄せて、私に納得させ、それから次に、英語でもつて、外の客人へ、カムインと呼びかけた。
 庭
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