で澄み返つてゐた。私は早自分で息を殺し切れなくなつた。私の若い心は謎《なぞ》を解く事よりも、それを破壊して了ふ事を望む程にあせり出した。
「ウラスマル君!」と私はせんかたも尽きて、今はこらへてゐた息を俄《には》かに強く外方へと押し出した。その声につれて、初めて燈火はゆらぎ、太い異人の腕は動いた。
「その原因を話して下さい。」と私は上を仰いで彼れに聞いて見た。青年は出来るだけゆるやかな態度で首を出し、少し考へてから、私に英語で次の意味を答へた――
「私は恥かしい。唯《た》だ、向うの方を見てゐたのです。」
「単に、闇をですか?」と、私は眼を見はつて反問した。
「さうです……」彼は無器用に答へ、少しの間、沈思してから、又|呟《つぶや》いた――「闇は非常に広いものであるが、然しそれを見ようとすると、ほんの少ししか眼に映らない……」
「貴方《あなた》の国では、闇の事をマーヤの帷《とば》りだなぞとは云ひませんか?」
「云ひません。」彼れは彼れ独特なそして極く秘密な闇の観照を私から発見された事にひどい羞《はぢ》らひを感じてゐるらしく、その羞らひは彼れの心を多少とも不機嫌《ふきげん》へと転じた如くであ
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