れ程深い交際にと入り込んでゐる訳でない私は、其の後ウラスマルの新鮮な恋が何う進んでゐるかを実際に知る事が出来なかつたのも道理であるが、そのため、不思議にも、私の空想力は却《かへ》つて敏活に働くものの如く、実に次のやうな断定へと急いで行つた――
「彼れは貧困のため、女の歓心を充分に買ふ事が出来ないで今や非常に悩んでゐる。女は彼れよりも上段に立つて、むしろ、彼れを軽蔑《けいべつ》さへしてゐる。所で、ウラスマルはあの野暮な、何の取り柄もない体を飾る唯一のものとして、カシミヤブーケを選んだとは何たる気の毒な分別《ふんべつ》だらう。然も、それを自身の金銭で買ひ得ず、同居人から僅かに一二滴を貰ふと云ふのは充分悲惨で、憐愍《れんびん》す可き事ではあるまいか。」
私は以上の断定を真実なものとして堅く信じ初めたのである。
私がウラスマル及びその高慢な恋人に会つた日から四日後の事である。私は勉学に労《つか》れた頭を休めるため、桜の若葉を見ようとして、横浜公園の内部へと這入つて行つた。そして偶然にも、其処の或るベンチに、深く考へ込んでうなだれてゐるウラスマルを見出したのだつた。私は若《も》しや例の女性も
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