かしてかかる厚意は稀に自発的に発することもないとは限るまいけれど、多くの場合においてはむしろ強請によってやむを得ず表現せざるを得ぬ事情に立ち至るのである。しからばかかる強請が時と場合とを択ばずに行ない得るものであるかというに、それは決してそうでない。強請といえば少々語弊があるが、要するに請求してよいだけの資格が生じて、しかる後にした請求でなければ、真にその欲するところを貫徹することができぬ。換言すれば階級精神を打破するか、あるいはその衰微を促すのには、下層人民が進歩し、向上し、その属する国家社会において己らがいかに重要なる分子を構成しているかを自覚することが最も必要である。喜んで上流よりする仁愛を仰ぎつつある間は、とうてい階級精神の打破はできぬものである。藤原時代においては最下層の者はもちろん、それよりもなお一段上に在る中流階級すらも、みな文明の上において所動者であって、概括すれば社会は階級上三というよりもむしろ二に大別され、藤原氏の一部および少数の異姓者が上流を組織し、もって武士以下の下級者に臨んだものだ。武士らは中流社会というよりも、むしろ下級中の上層に位すというべきものであった。
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