し得たるなり、この考察や、其考證以前にあるべきものにして一言以てこれを掩へば、史料の自證是れなり、これを爲して後史家は更に外圍の事情に照らして以て既に得たる觀念の範圍を定め、其色彩を明にし、更に精確なる者となさゞるべからず、他證是れなり、史料の自證や必其他證に先つべき者にして、若此順序を顛倒する時は、史料は其獨立の價値を失ひて既に他の史料によりて成れる觀念に更に零碎の知識を附與するに過ずして、史料中にて多數の壓制行はるることなり、史料其者が固有せる色彩は全く埋沒し、其現に放つべき光は他より借受けたるものとなりて、恰も月が太陽の光によりて始めて輝くが如くなるべし、一個の事實にして二樣以上の解釋をなし得べき者少しとなさず、若し單に外圍の事情を基として成せる觀念のみを重くこれによりて、此疑を判定し得ざるべしとせば、此觀念の錯誤ある場合に於ては遂にこれを矯正することを得ざるべし、史料中の多數の壓制とはこれなり、而して如何なる事實も其實際に於ては決して一個以上の正當なる解釋を許さゞる者なること明なれば、最深最後の疑團は史料の自證を措きて他に解釋の方法を索め得べからざるなり。
自證を經、他證を經
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