いふべからず、若し僞造に巧なる者ありて當時の紙と當時の墨とを用ゐ當時の書體に熟して文辭も亦相應なるものを作爲せば、熟練の鑑定者と雖、往々にして欺かるゝことあるべく、又文書類の者は兎も角、著述に至りては此種の鑑定は效力を顯はし得べき場合極めて稀少なるべし、且此種の批評充分にして鑑定正鵠を得、其史料にして僞造の者ならずと斷定せられたりとするも、未遽に其文書の内容を信用すべきにあらず、若し直にこれを輕信してこれを有效の史料となし其記載の事實によりて立論せば、其斷案の事實の眞相に背馳するに至る事なきを保せず、されば既に明に外形上によりして僞造と定まりたる史料は固より措て論ぜず、外形上の批評よりして疑似に屬するもの并に既に眞物と鑑定せられたる史料は爰に第二の試驗を經るの必要起るなり。
 内容批評即第二の批評は、更に之を分ちて二となすことを得べし、曰く史料其者の批評、曰く外圍の關係より來る批評是なり、第一は他に關係なくして單に其史料につきて下す考察にして、其史家に與ふべき史的觀念の極めて漠然たるべきにも關せず、史料利用の根原となるべきものなり、若し此考察にして健全なるを得ば史家は既に其事業の半を成
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