ある。曰く経典は悉《ことごと》く神自身の直接の言葉であるから、これに対して、一言半句の増減を許さない。若《も》し之に反けば破門あるのみである。曰く経典の翻訳は神慮を受けた人達の手によりて成就されたのであるから、翻訳書に対しても、亦《また》絶対服従を要する。……かかる為態《ていたらく》では経典の片言隻語《へんげんせきご》を捕えて、奇想天外の教義教条が、次第に築き上げらるる筈ではないか。
われ等の態度は、全然これと選を異にする。われ等は、バイブルが人間界に漏らされたる、啓示の集録であることを認め、之《これ》を尊重することを知っているが、しかしわれ等は、これに盲従するよりは、寧《むし》ろこれを手懸りとして、神につきての観念の、時代的進歩の跡を辿ろうとする。神は最初アブラハムの良友として、彼の天幕を訪れて食事を共にしながら懇談した。ついで神は人民を支配する大立法官となり、ついでイスラエルの万軍を指揮する大王となり、ついで予言者達の肉体を通じて号令をかける大暴君となり、最後に神は、愛の権化として崇拝の中心とせらるるようになった。これは神そのものの進歩ではなくて、神に対する人間の理解の進歩である。神につきての人間の知識は、永久に完全でない。人間はただ一歩一歩神に近づいて行くまでである。
かるが故に、心から真理を求むる人士のみが、神に関するわれ等の示教を受け容れることができる。一部の人士は、自分たちが完全なる知識の所有者であると空想する。われ等はそれ等に対して、言うべき何物も有《も》たない。われ等が手を加える前に、彼等は前以って神に関し、又啓示に関して、自己の無学であることを学ばねばならぬ。われ等の述ぶる千語万語も、かの無知、自己満足、及び独裁主義の金城鉄壁を貫通する見込はない。それ等の人物は将来に於《おい》て、苦痛と悲哀の高き代償を払って、彼等の霊的進歩を妨ぐる先入主《せんにゅうしゅ》と、偏見とから脱却せねばならない。われ等は汝の心眼が、これまでの説明で、多少開けて居ると信ずるから、以下進んで啓示の性質につきての解説を試みることにする。
すでにのべた通り、バイブルは、各時代時代に、人間に下されたる神の啓示の集録である。全体を流貫する精神、骨髄には[#「骨髄には」は底本では「骨髄にに」]何の相違もないが、いつもその時代の人間が把握し得る程度の真理しか漏らしていない。時代を離れて啓示はないのである。
思え、啓示を漏らすべき道具は、いつも一人の人間である。かるが故に霊媒の思想霊媒の意見の多少混らぬ啓示は、絶対にあり得ない。何となれば、霊界の住人は、霊媒の心の中に見出さるる材料を運用するより外に、通信の途がないからである。無論できる限り、それ等の材料に補修改造を施し、且《か》つ真理に対する新見解を、これに注入すべく全力を挙げる。が、何と言っても既製品を使用するのであるから、必ずしも思う壺にはまらぬことがある。大体に於《おい》て霊界通信は、霊媒の心が受身になって居れば居るほど、又周囲の状態が良好であればあるほど、純潔性を保つことができるのである。試みにバイブルを繙《ひもと》いて見るがよい。必ずしも平均した出来栄でない。或《ある》部分には霊媒の個性の匂いがついて居る。或《あ》る部分は憑《かか》り方が不完全であった為めに、誤謬《ごびゅう》が混入して居る。或《あ》る部分には霊媒自身の意見が加味されている。就中《なかんずく》どの啓示にも、その時代の要求にあてはまる一種の特色があり、そのまま之《これ》を他の時代に適用することはできないのである。
その然《しか》る所以《ゆえん》は、各自バイブルに就《つ》きて査《しら》ぶれば明瞭となるであろう。一例を挙げれば、かのイシアの啓示などがそれである。何と彼自身の個性の匂いが強烈なことであろう。無論彼も独一の神につきて説いて居る。
が、それは極度に詩的空想に彩色《いろどら》れたもので、エゼキールの隠喩的筆法とは格段の相違がある。同様にダニエルは光の幻影を描き、ジュレミアは天帝の威力を説き、ホシアは神の神秘的象徴に耽《ふけ》って居る。エホバ神に何の変りもないのであるが、各自その天分に応じて、異った啓示を漏らして居る。ずっと後世になりても、その点に於《おい》て何の相違もない。ポーロとペテロは同一の真理を説き乍《なが》ら、必然的に別の角度から之《これ》をのぞいている。どちらの説く所も虚偽ではないが、しかしどちらも真理の一面にしか触れていない。インスピレーションは、神から来る。しかし霊媒は人間である。
人々がバイブルを読んで心の満足を見出すのは、つまり自分自身の心の反映を、バイブルの中に見出すからである。神につきての知識と、理解とが、極めて貧弱である為めに、彼等は過去の啓示に満足し、別に新啓示に接して、自己の心胸を
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