すでに述べた通り、生命は不可分の単一的実在である。それは例外なしに、上へ上へと前進の一路を辿り、そしてそれは例外なしに、永遠不動の法則によりて支配せられる。何人も寵児として特別の待遇に浴することなく、又何人も不可抗力の誤謬《ごびゅう》の為めに、無慈悲な刑罰に服することはない。永遠の正義は、永遠の愛と相関的である。慈悲は神的属性ではない。そうしたものは無用である。何となれば、慈悲は刑罰の赦免を必要とするが、刑罰の赦免は、犯せる罪の一切の結果が除き去られた暁に於《おい》てのみ、初めて可能だからである。憐れみは神に近いが、慈悲は寧《むし》ろ人間に近い。
 われ等は、かの全然瞑想に耽《ふけ》りて、自己の責務の遂行を等閑視《とうかんし》する、人気取式の神信心を排斥する。神は断じて単なる讃美を嘉納《かのう》されない。われ等は真剣な仕事の宗教熱烈な祈願の宗教、純真な尊敬の宗教を唱道する。人間は神に対し、同胞に対し、又汝自身に対して、全身全霊をささげて尽すべき責務がある。かの徒《いたず》らに暗中に摸索し神学的虚構物につきて好事的詭弁を弄するが如きは、正に愚人の閑事業たるに過ぎない。われ等は飽まで、現実の生活に即して教を樹《た》てる。要約すれば左の三部分に分れる。――
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(一)神の認識と崇敬。…………神に対する責務。
(二)同胞への貢献。……………隣人に対する責務。
   イ、自己の肉体を守る。 ┐
   ロ、自己の知識を開発す。│
(三)ハ、真理を求める。   ├………自己に対する責務。
   ニ、善行を励む。    │
   ホ、幽明交通を講ず。  ┘
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 以上の規則の中に、地上の人間に必要なる責務は、ほぼ尽されている。汝等は断じて、一宗一派のドグマに屈従してはならぬ。理性と合一せざる教訓に盲従するのは、人間の恥辱である。所謂啓示の中には、ある特殊の時と場合にのみ適用さるべき性質のものが多いから、無条件にそれに盲従してはならぬ。神の啓示は進歩的であって、特殊の時と、特殊の民族とに限られない。又神の啓示は、未だ曾《かつ》て止んだことがない。神はシナイ山頂で啓示したと同じく、現在も啓示する。しかも人類の進歩につれて、神の啓示も進歩する。
 尚おここで忘れてならないことは、一切の啓示が、皆一人の人間を機関として行わるることである。従ってそれは或《あ》る程度、人間的|誤謬《ごびゅう》によって歪められない訳には行かぬ。いかなる啓示も、絶対的純一物でない。かるが故に、或《あ》る時代に現れたる啓示が他の時代に現れたる啓示と、全然符合しないと言って、必ずしもその一つを異端視する訳には行かぬ。事によると両者とも正しく、ただそれぞれ別箇の適用性を有するのかも知れぬ。すべてはただ純正推理の規準に拠りて、取捨選択を加えればよい。道理が許せば之《これ》を採り、道理が許さねば之《これ》を棄てる――ただそれ丈である。若《も》しもわれ等の述ぶる所が時期尚早で、採用を憚《はばか》るというなら、しばらく之《これ》を打ちすてて時期の到るを待つがよい。必ずやわれ等の教訓が、人類の間に全面的承認を受くる時代が早晩到来する。われ等は決してあせらない。われ等は常に人類の福祉を祈りつつ、心から真理に対する人類の把握力の増大を祈願して居るものである。
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(評釈) 霊訓中でも、この一章に説く所は、特にすぐれた暗示、すぐれた示唆に富んで居る。贖罪説の迷妄を説き、天則の厳守をすすめ、守護霊の存在を教え、永遠の向上進歩を叫び、人気取りを生命とする一切のデモ教団を斥け、又啓示に盲従することの愚を諭す等、正に至れり尽せりと言ってよい。しかも少しもあせらず、押売りせず、悠々として人智の発達を待とうとする高風《こうふう》雅懐《がかい》は、まことに見上げたものである。私は心からこの章の精読を皆様におすすめしたい。
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      第九章 啓示の真意義

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問『キリストの神性、並《ならび》にその贖罪に対する信仰が、果して一片のドグマに過ぎないであろうか? 御教訓が高尚で、合理的で、純潔であることに異論はないが、あまりにもキリスト教の趣旨と、相容れない点が多くはないであろうか?』
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 経典病の弊害[#「経典病の弊害」に白丸傍点]――汝の疑惑は、よくわれ等に理解し得る。前回に説ける所は、単なる輪廓に過ぎなかったから、今回は少し立ち入りて説明を施すことにしよう。
 所謂キリスト教の正統派というのは、左の諸点を唱道する人達である。曰く三位一体の一位が選ばれたる人々を通じて、真理を人間界に伝えるのであるから、その教は完全円満、永遠不朽に伝うべきで
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