ありそこに残忍、暴虐、その他人間的悪徳の片鱗をも認むることはできない。神は罪悪がそれ自身の中に刑罰を含むことを知るが故に、常に憐憫《れんびん》の眼もて、すべての人の過誤を見、枉《ま》げられぬ道徳律の許す範囲内に於《おい》て、傷ける者の苦悩を和げようとする。神こそは実に光と愛の中心である。秩序を保つべく、天則の厳守に当らるる神、これがわれ等の崇拝の大目標でなくて何であろう! 神は断じてわれ等の恐怖の対象ではないのである!
われ等は汝等の思索想像する以上に、よく神を知って居る。が、何人もまだ神の姿を拝したものはない。又われ等は形而上的《けいじじょうてき》詭弁家《きべんか》の顰《ひそみ》に倣《なら》って、あまりにも深入りしたる推理|穿鑿《せんさく》に耽《ふけ》ろうともしない。何となれば、そは却って神の根本観念を失わしむるものであることを知るからである。われ等は断じて力量以上の、立入った穿鑿《せんさく》には与《くみ》しない。われ等は心静かに知識の増進を待って居る。汝等も亦《また》それを待たねばならぬ。
神と人との関係につきて、われ等は細説を避けたい。兎角この事につきても、人間の工夫発明にかかるものが甚《はなは》だ多く、長き年代の間に蓄積されたる附加物が、中心の真理を隠蔽して居る。例えばかの選ばれたる少数者――そうしたものをわれ等は知らない。選ばれたる者というのは、天地の大道を守りて、自からを救うもの以外には絶無である。
又われ等は、盲目的信仰の価値に就《つ》きては何事も知らない。むろん、素直に真理を受け入れ、片々《へんぺん》なる疑心暗鬼の煩《わずら》いから超脱する事は甚《はなは》だ尊い。それは神心の現れで必ずや天使の守護に浴し得る。が、われ等は断乎として、かの有毒な神学的教義を排斥する。それ等の教義が教うる、教会のドグマを厳守すれば、地上生活に於ける一切の悪徳邪行から、きれいに一掃せられて、神の恩寵に浴し得ると……。凡《およ》そ天下にこれ以上に、人の魂を堕落せしむるものはあるまい。
それから又われ等は、ただある一つの信仰が有力で、他は全部排斥してよいという理由を、何所にも認むることができない。真理は断じて或《あ》る教義教条の独占物ではない。むろん何《いず》れの教義にも真理の種子はある。が、何《いず》れの教義にも誤謬《ごびゅう》の夾雑物《きょうざつぶつ》がある。人間がいかなる状況の下に、いかなる信仰形式を採ることになったか、その真相が、われ等にはよく判って居る。故にわれ等は之《これ》を軽視はせぬ。が、形式は要するに末で、真理が根源である。優れた霊魂は、皆地上生活中に信奉せる教義から超脱して一路向上の途を辿っている。われ等は人間の好む繁瑣《はんさ》なる議論を好まない。われ等はかの地上の神学を特色づける、神秘につきての好奇的|穿鑿《せんさく》を求めない。霊界の神学は飽までも単純で知識的である。われ等は単なる暗中摸索を尊重しない。われ等は宗派的論争には興味を有《も》たない。何となれば、そはただ怨恨、嫉妬、悪意、排他的感情の原動力以外の何物でもないことを知っているからである。
われ等が宗教を論ずるのは、宗教がわれ等と汝等との生活に、直接の関係を及ぼすからである。人間――われ等の観る所によれば、人間は矢張り不滅の霊魂の所有者であるが――の地上生活は、言《い》わば第一期の初等教育で、ここで簡単なる任務を遂行すべく教えられ、一層進歩せる死後の世界の高等教育に対する準備を整える。彼は幾つかの不可犯の法則によりて支配せられる。若《も》しこれを犯せば、彼を見舞うものは不幸であり、損害であり、若《も》し又|之《これ》を守れば、彼に訪るるものは進歩であり、満足である。
爰《ここ》でくれぐれも銘記せねばならぬは、地上の人間が、曾《かつ》て彼と同じ道を歩める、他界の居住者達の指導下にあることである。それ等の指導者達は、神命によりて、彼を守護すべく特派されているのであるが、その指導に服すると否とは、人間の自由である。人間の内には、常に真理の指示を誤らざる一つの規準が、天賦的に備って居るのであるが、これを無視した時に、いかなる指導者も施すに術はない。脱線と堕落とが伴って来る。すべて罪は、それ自身に懲罰を齎《もた》らすのであって、外部的の懲罰を必要としない。
兎に角地上の生命は、大なる生命の一断片である。生前の行為と、その行為に伴う結果とは、肉体の死後に於《おい》ても依然として残存する。故意に犯せる罪悪の流れは、どこまで行っても、因果の筋道を辿りて消ゆることがない。これは悲哀と恥辱とを以《もっ》て償わねばならない。
これと同様に、善行の結果も永遠不滅である。清き魂の赴く所には、常に良き環境が待ち構えて居《お》り、十重二十重にその一挙一動を助けてくれる。
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