しながら、二人の金髪の少女が自転車でついと私達を追い越すやいなや、柵の入口のところへめいめいの自転車を乗り捨てて、二人ともお下げに結った髪の先をぴょんぴょん跳ねらしながら、いそいで教会の中へ姿を消した。
 私達はその姉妹らしい少女らの乗り捨てていった自転車の尻に、両方とも「ポオランド公使館」という鑑札のついているのを認めた。それは丁度、ドイツがポオランドに対して宣戦を布告した、その翌日だった。私達は立ち止ったまま、もう一度顔を見合せた。
 私達は、おそらくきょうこの教会に集まってきている人達は、それぞれの祖国の危急をおもって悲痛な心を抱いているものばかりであろうのに、そんな中へ心なしにも数人でどやどやとはいって行くのが少々気がひけて来たのだった。が、それだけにまた一層、いましがたそういう人達の中に雑《まじ》っていった二人のポオランドの少女が私達の心をいたく惹《ひ》いた。私達はこんども誰からともなく思い切ったように教会のなかへはいって行った。そうしてめいめい他の人達のように十字は切らないで、一人ずつ、内陣の方へ向って丁寧に頭を下げながら、まだすこし空いていた、うしろの方の藁椅子《わらいす
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