れらの少女らは一人として私を苦しめないものはなく、それに私は彼女らのために苦しむことを余りにも愛していたので、そのために私はとうとう取りかえしのつかない打撃を受けた。
私ははげしい喀血《かっけつ》後、嘗《かつ》て私の父と旅行したことのある大きな湖畔に近い、或る高原のサナトリウムに入れられた。医者は私を肺結核だと診断した。が、そんなことはどうでもいい。ただ薔薇《ばら》がほろりとその花弁を落すように、私もまた、私の薔薇いろの頬《ほお》を永久に失ったまでのことだ。
私の入れられたそのサナトリウムの「白樺《しらかば》」という病棟には、私の他には一人の十五六の少年しか収容されていなかった。
その少年は脊椎カリエス患者だったが、もうすっかり恢復期《かいふくき》にあって、毎日数時間ずつヴェランダに出ては、せっせと日光浴をやっていた。私が私のベッドに寝たきりで起きられないことを知ると、その少年はときどき私の病室に見舞いにくるようになった。或る時、私はその少年の日に黒く焼けた、そして唇《くちびる》だけがほのかに紅《あか》い色をしている細面《ほそおもて》の顔の下から、死んだ三枝の顔が透かしのように現
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