》をガサガサと音させながら上って行ったが、だんだんその落葉の量が増して行って、私の靴《くつ》がその中に気味悪いくらい深く入るようになり、腐《くさ》った葉の湿《しめ》り気《け》がその靴のなかまで滲《し》み込んで来そうに思えたので、私はよっぽどそのまま引っ返そうかと思った時分になって、雑木林《ぞうきばやし》の中からその見棄《みす》てられた家が不意に私の目の前に立ち現れたのであった。そうしてその窓がすっかり釘《くぎ》づけになっていて、その庭なんぞもすっかり荒《あ》れ果て、いまにも壊《こわ》れそうな木戸が半ば開かれたままになっているのを認めると、私は子供らしい好奇心《こうきしん》で一ぱいになりながらその庭の中へずかずかと這入《はい》って行った。
そうして一めんに生い茂った雑草を踏《ふ》み分けて行くうちに、この家のこうした光景は、数年前、最後にこれを見た時とそれが少しも変っていないような気がした。が、それが私の奇妙な錯覚《さっかく》であることを、やがて私のうちに蘇《よみがえ》って来たその頃の記憶《きおく》が明瞭《めいりょう》にさせた。今はこんなにも雑草が生い茂って殆《ほと》んど周囲の雑木林と区
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