ナトリウムの方からその土手をうんうん言いながら重たそうに荷車を引いてくる者があるので、私は道をあけようとして立ち上った。見ると、それは一台の塵芥車《ごみぐるま》だった。私は、とんでもないものがこんなところを通るんだなあと思いながら、道ばたの灌木《かんぼく》の中へすっぽりと身体《からだ》を入れながら、よそっぽを向いていた。が、その塵芥車がやっと私の背後を通り過ぎたらしいので何気《なにげ》なくちらりとそれへ目をやると、その箱車のなかには、鑵詰《かんづめ》の鑵やら、唐《とう》もろこしの皮やら、英字新聞の黄ばんだのやら、草花の枯《か》れたのやらが、一種汚らしい美しさで、ぎっしりと詰《つ》まっていた。そしてその車の通った跡には、いつまでも腐《くさ》った果物に似た匂《にお》いが漂《ただよ》っていた。……私はこんな塵芥車のようなものにも、いかにもこの外国人の多い村らしい独得な美しさのあるのを面白《おもしろ》がって、それをちょっと見送った後、再びさっきのアカシアの木蔭へぼんやり腰を下ろしていると、ものの数分と経たないうちに、私はまたしても私の背後へ近づいてくる車の音でもって、立ち上らなければならなかっ
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