起して、私たちの方をもの憂《う》げな眼《まな》ざしで眺め出した。――それから私たちは、なおもその流れに沿って、そこいらへんから次第にアカシアの木立に縁《ふち》どられだす川沿いの道を、何処までも真直に進んで行った。それらのアカシアの花ざかりだった頃は、その道はあんなにも足触《あしざわ》りが軟《やわら》かで、新鮮《しんせん》な感じがしていたのに、今はもう、あちこちに凸凹《でこぼこ》ができ、汚《きたな》らしくなり、何んだかいやな臭《にお》いさえしていた。その上、それらのアカシアの木立は、まだみんな小さいので、はげしい日光から私たちを充分《じゅうぶん》に庇《かば》うことが出来ないので、その川沿いの道はそれまでの道よりも一層暑いように思えた。私たちは途中からそれらのアカシアの間をくぐり抜けて、丁度サナトリウムの裏手にあたる、一面に葦《よし》の這っている、いくぶん荒涼《こうりょう》とした感じのする大きな空地へ出た。其処《そこ》からは、村の峠《とうげ》が、そのまわりの数箇《すうこ》の小山に囲繞《いにょう》されながら、私たちの殆んど真向うに聳《そび》えていた。――梅雨期《ばいうき》には、その頃の私自身
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