、やはり同じような白い碁盤縞のシャツを着て、きょとんと腰《こし》をかけ、往来の方を眺めているのに気づくだろうからだ。ただ異うのは、そんな二人のそばに坐っているのが、一方はいつも髪《かみ》の毛をくしゃくしゃにさせた、肥《ふと》っちょの女房《にょうぼう》であったし、もう一方はそれと好対照をしている位に痩《や》せっぽちの、すこし藪睨《やぶにら》みらしい女房であることだ。つまり、その二軒の花屋の老いたる主人たちは、ほとんど瓜《うり》二つと云《い》っていいほどの、兄弟なのであった。その上、可笑《おか》しいことには、この花屋の兄弟はとても仲が悪くて、夏場だけはお互《たがい》に仲好《なかよ》さそうに口を利《き》き合いながら商売をしているが、さて夏場が過ぎてしまうと、すぐに性懲《しょうこ》りもなく喧嘩《けんか》をし始め、冬の間などは、お互に一言も口を利かずに過ごすようなことさえあると言うことだった。――そんな風変りな二軒の花屋のある横町には、道ばたに数本の小さな樅《もみ》と楓《かえで》とが植えられてあったが、その一番手前の小さな楓の木に、ついこの間のこと、「売物モミ二本、カエデ三本」という真新しい木札
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