ことさえある村の子供たちと出会《であ》うようなこともあったが、彼等は私たちの傍を素知らぬ顔をして通り抜《ぬ》けていった。もう私を覚えていないのだろうか、それとも私がそんな見知らない少女と二人づれなのを異様に思ってそうするのだろうか? ……しかしそれらの子供たちも、そのうちだんだんに、そんな林の中で最初のうちは私たちのよく見かけたものだった、さまざまな小鳥などと共に、その姿をほとんど見せないようになった。そしてその代り、私たちとすれちがいながら、私たちに好奇的な眼《まな》ざしを投げてゆく、散歩中の人々や、自転車に乗った人々などがだんだんに増えて来た。それらの中には私と顔見知りの人たちなども雑《まじ》っていた。私はいつかこんなところをひょっくり昔の女友達にでも出会いはしないかと一人で気を揉《も》んでいたが、ときどき、そんな散歩の途中《とちゅう》に、ふと向うからやってくる人々のうちに遠見がどこかそれらに似たような人があったりすると、私は慌《あわ》てて、その人たちを避《さ》けるために、道もないような草の茂《しげ》みのなかへ彼女を引っ張りこんで、何んにも知らない彼女を駭《おどろ》かせるようなこと
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