けようてった調子なんですからね。……それで、こっちでもだんだん情が通わなくなって来て、この頃じゃ、もう、ちっとも構いませんです」
「何だってね、――その気ちがいって、ときどき川のなかへ飛び込むんだってね?」
「へえ、そんな人騒《ひとさわ》がせなこともときどきやりますが、あれあどうも少し狂言《きょうげん》らしいんで……」
「そうなのかい? ――どうしてまたそんな……」
私はふと口ごもりながら、あの林のなかの空地にあった異様な恰好《かっこう》をした氷倉《こおりぐら》だの、その裏の方でした得体《えたい》の知れない叫《さけ》び声だのを思い浮べた。そうしてそれ等《ら》のものを今だにこんなにも異常に私に感じさせている、峠の子供たちの不思議な領分の上を思った。――子供たちよ、よし大人《おとな》たちにはそういう狂行が贋《にせ》ものに見えようとも、お前たちは、そんな大人たちには鎖《とざ》されている、お前たちだけのその領分の中で遊べるだけ遊んでいるがいい。
爺やとの話は、私の展開さすべく悩んでいた物語のもう一人の人物の上にも思いがけない光を投げた。それはあの四十年近くもこの村に住んでいるレエノルズ博士
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