《ぐみ》だ」と彼等は返事をした。そうして彼等はときどき私の方をふり向いて手招きをしたが、私が下生えに邪魔《じゃま》をされてなかなか其処まで行くことが出来ずにいると、大きい方の子がその実を少しばかり私のために持って来てくれた。私は子供たちの真似《まね》をしてそれを一つずつこわごわ口に入れてみた。なんだか酸《す》っぱかった。私はしかしそれをみんな我慢《がまん》をして嚥《の》み込んだ。そうして子供たちが低い枝にあった実をすっかり食べつくしてしまうと、今度は高くて容易に手の届きそうもない枝をしきりに手《た》ぐろうとしては失敗しているのを、私は根気よく、むしろ面白《おもしろ》いものでも見ているように見入っていた。
 子供たちはまた林の中のいろいろな抜《ぬ》け道を私に教えてくれようとした。そうして急な草深い斜面《しゃめん》をずんずん駈け下りて行った。私はそのあとから危かしそうな足つきでついて行った。ほとんど何処からも日の射《さ》し込んで来ないくらい、木立が密生して枝と枝との入りまじっているところもあった。かと思うと急に私たちの目の前が展《ひら》けて、ちょっとの間何も見えなくなるくらい明るい林のなか
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