もだえさせているのなどを見つめていると、私は無気味になって来てならない位だった。――或る朝、私は例の気まぐれから峠まで登った帰り途《みち》、その峠の上にある小さな部落の子供|等《ら》二人と道づれになって降りて来たことがあった。その折のこと、その子供たちはいろいろな木に絡まっている、もっと他の山葡萄だの、通草だのをも私に教えてくれたのだった。子供たちは秋になるとそれ等の実を採りに来るので、それ等のある場所を殆んど暗記していた。それからまた小鳥の巣《す》のある場所を私に教えてくれたりした。彼等は峠で力餅《ちからもち》などを売っている家の子供たちであった。大きい方の子は十一二で、小さい方の子は七つぐらいだった。三人兄弟なのだが、その真ん中の子が村の小学校からまだ帰らぬので峠の下まで迎《むか》えに行くのだと言っていた。
 子供たちは何を見つけたのか急に私を離れて、林のなかへ、下生えを掻《か》き分けながら駈けこんでいった。そうして一本のやや大きな灌木《かんぼく》の下に立ち止まると、手を伸《の》ばしてその枝から赤い実を揉《も》ぎとっては頬張《ほおば》っていた。それは何の実だと訊《き》いたら、「茱萸
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