かったし、それに私はさっきから自分の印象をまとめようとしてそれにばかり夢中《むちゅう》になっていたので、そんな唸り声にふと気づく度毎《たびごと》に、何んだか私自身の頭脳《ずのう》がひどい混乱のあまりそんな具合《ぐあい》に唸り出しているのではないかと言うような気もされた。……

     ※[#アステリズム、1−12−94]

 その村の東北に一つの峠《とうげ》があった。
 その旧道には樅《もみ》や山毛欅《ぶな》などが暗いほど鬱蒼《うっそう》と茂っていた。そうしてそれらの古い幹には藤《ふじ》だの、山葡萄《やまぶどう》だの、通草《あけび》だのの蔓草《つるくさ》が実にややこしい方法で絡《から》まりながら蔓延《まんえん》していた。私が最初そんな蔓草に注意し出したのは、藤の花が思いがけない樅の枝からぶらさがっているのにびっくりして、それからやっとその樅に絡みついている藤づるを認めてからであった。そう言えば、そんなような藤づるの多いことったら! それらの藤づるに絡みつかれている樅の木が前よりも大きくなったので、その執拗《しつよう》な蔓がすっかり木肌《きはだ》にめり込んで、いかにもそれを苦しそうに身
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