の空地があったりした。私たちがそういう林の中の空地の一つへ辿《たど》り着いた時、突然《とつぜん》、一つの小石が何処《どこ》からともなく飛んで来て私たちの足許《あしもと》に落ちた。その飛んで来たらしい方を私たちがまぶしそうに振《ふ》り向いた途端《とたん》、数本の山毛欅《ぶな》を背にしながら、ほとんど垂直なほど急な勾配《こうばい》の藁屋根《わらやね》をもった、窓もなんにもないような異様な小屋の蔭《かげ》へ、小さな黒い人影《ひとかげ》が隠れるのを私たちは認めた。それを知っても、しかし、私の小さな同伴者《どうはんしゃ》たちは何も罵《ののし》ろうとせず、却《かえ》って私に向って何かその言訣《いいわけ》でもしたいような、そしてそれを私に言い出したものかどうかと躊躇《ためら》っているような、複雑な表情をして私の方を見上げているので、私は不審《ふしん》そうに、
「あの子は白痴《ばか》なのかい?」と訊いた。
子供たちは顔を見合わせていた。それから大きい方の子が低声《こごえ》で私に答えた。
「そうじゃないよ。――あれあ気ちがいの娘《むすめ》だ」
「ふん、それであんな変な家にいるんだね?」
「あれあ氷倉《
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