のがその屋根の頂きからころころと転がって来ては、庇《ひさし》のところから急に小石のように墜落《ついらく》して行くのだった。しばらく間を置いては又それをやっている。私は何だろうと思って、眼を細くしながら見まもっていた。そうしてそれ等が二羽の小鳥であるのを認めた。それ等が交尾《こうび》をしながら、庇のところまで一緒《いっしょ》に転がって来ては、そこから墜落すると同時に、さあと二叉《ふたまた》に飛びわかれているのだった。同じ小鳥たちなのか、他《ほか》の小鳥たちなのか分らないが、それが何回となく繰《く》り返されている。――これは私の物語の中にとり入れてもいいぞ、と思いながら私はそれを飽《あ》かずに見まもっている。――こんな風にして、自分の見つつあるものが自分の構想しつつある物語の中へそのままエピソオドとして溶《と》け込んで来ながら、自分からともすると逃《に》げて行ってしまいそうになる物語の主題を少しずつ発展させているように見える……。
 アカシアの花が私の物語の中にはいって来たのもそんな風であった。それの咲き出す頃が丁度私の田舎暮しもそのクライマックスに達するのではないかというような予覚のする
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