の中に昔よく遊んでやったことのある宿屋の子供がいるのを認めた。そのうちに他《ほか》の子供たちは去った。そしてその子供だけがまだ地面に跼《こご》んだまま一人で何かして遊んでいた。私はその子の名前を呼んだ。その子はしかし私の方を振《ふ》り向こうともしなかった。それほど自分の遊びに夢中《むちゅう》になっているように見えた。私がもう一度その名前を呼ぶと、やっとその子はうす汚《よご》れた顔を上げながら私に言った。「太郎ちゃんは何処《どこ》にいるか知らないよ」――私はその時初めてその小さな子供は私の呼んだ男の子の弟であるのに気がついたのだ。しかし何という同じような顔、同じような眼差《まなざし》、同じような声。……暫《しば》らくしてから「次郎! 次郎!」と呼びながら、一人の、ずっと大きな、見知らない男の子が庭へ這入《はい》って来るのを私は見た。ようやく私になついて私の方へ近づいて来そうになったその小さな弟は、それを聞くと急いでその方へ駈《か》けて行ってしまった。私の方では、その大きな見知らないような男の子が昔私と遊んだことのある子供であるのを漸《や》っと認め出していた。しかし、その生意気ざかりの男の
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