ちの一家のものを見出《みいだ》した。私たちは昂奮《こうふん》して、痛いほど肩を叩《たた》きあった。お前たちはすっかり歩き疲れていた。私はすぐ近くのY村まで行けば、一晩位はどうにかなるだろうと云って、お前たちを無理に引張って行った。
 Y村では、野原のまん中に、大きな天幕が張られていた。焚火《たきび》がたかれていた。そうして夜更《よふ》けから、炊《た》き出しがはじまった。その時分になっても、私の両親はそこへ姿を見せなかった。しかし私は、そんな周囲の生き生きとした光景のおかげで、まるでお前たちとキャンプ生活でもしているかのように、ひとりでに心が浮き立った。
 私はお前たちと、その天幕の片隅《かたすみ》に、一塊りに重なり合いながら、横になった。寝返りを打つと、私の頭はかならず誰かの頭にぶつかった。そうして私たちは、いつまでも寝つかれなかった。ときおり、かなり大きな余震があった。そうかと思うと、誰かが急に笑い出したような泣き方をした。……すこしうとうとと眠ってから、ふと目をさますと、誰だか知らない、寝みだれた女の髪の毛が、私の頬《ほお》に触《さわ》っているのに気がついた。私はゆめうつつに、その
前へ 次へ
全35ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング