麦藁帽子
堀辰雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)苜宿《うまごやし》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)私は一人|息子《むすこ》で

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#アステリズム、1−12−94]
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 私は十五だった。そしてお前は十三だった。
 私はお前の兄たちと、苜宿《うまごやし》の白い花の密生した原っぱで、ベエスボオルの練習をしていた。お前は、その小さな弟と一しょに、遠くの方で、私たちの練習を見ていた。その白い花を摘んでは、それで花環《はなわ》をつくりながら。飛球があがる。私は一所懸命に走る。球《たま》がグロオブに触《さわ》る。足が滑《すべ》る。私の体がもんどり打って、原っぱから、田圃《たんぼ》の中へ墜落する。私はどぶ鼠《ねずみ》になる。
 私は近所の農家の井戸端《いどばた》に連れられて行く。私はそこで素っ裸かになる。お前の名が呼ばれる。お前は両手で大事そうに花環をささげながら、駈《か》けつけてくる。素っ裸かになるこ
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