ノ一つずつその熱帯植物のようなものが飾られてあるに過ぎない
何処かにこんな奇妙な珈琲店《コオフィイてん》があったような気もされてくる
しかしその中には誰もいない 全く空虚《からっぽ》だ
ちょっと這入《はい》って見てそれが何だか確かめてみたい
そんな処《ところ》に勝手に這入り込んでいて叱《しか》られたら
ままよ、それまでだ……と思って私は臆病《おくびょう》な探偵のようにこわごわその中に忍び込む
私がガラス戸を押し開けるや否や、ぷんと好い※[#「均−土」、第3水準1−14−75]がする
それがさっき象のさせていた好い※[#「均−土」、第3水準1−14−75]とそっくりだ
さっきの※[#「均−土」、第3水準1−14−75]が私の鼻に蘇《よみがえ》って来たのではないかと思えた位
何ともかとも云いようのないほど好い※[#「均−土」、第3水準1−14−75]だ
矢張り誰もいない 私はこわごわ一つの卓《テエブル》の傍に腰を下ろしながら
その※[#「均−土」、第3水準1−14−75]を捜す……私はそのとき始めて
熱帯植物の鉢植のかげに一つの灰皿があって
それに烟草《たばこ》の吸殻のようなものが一つ置き
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