ム氈の上には小さな香炉《こうろ》のようなものが載さっていて
それから一すじ細ぼそと白い烟《けむ》りが立ち昇っている
何かの広告であるらしいがそれが誰にも分らないらしい
隣りの人に聞いてもそれは分らないのが当り前だと云うような顔をしている
しかしその香炉の烟りは好い※[#「均−土」、第3水準1−14−75]《におい》がする 何ともかとも云いようのないほど好い※[#「均−土」、第3水準1−14−75]がする
象が何処《どこ》かへ行ってしまっても何時までもその※[#「均−土」、第3水準1−14−75]だけが残っている
(そうしてその象の残像と、その※[#「均−土」、第3水準1−14−75]とだけが私のなかに残って
いつか次の場面になってしまっている)
私の向うに温室のようなものが見え出す
それはすっかりガラス張りだ
私がそれを見て温室かしらと思ったのはそのガラス越しに
見知らない熱帯植物のような鉢植《はちうえ》がいくつも室内に置かれてあるのを見たからだ
しかしそれは普通の温室ではないらしい
中にはマホガニイ製の小さな卓《テエブル》が五つ六つ一種風致のある乱雑さで配置されている
そしてその上
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