惨《みじ》めなことよ。」
そんな溜息《ためいき》を洩らしながら昨夜《ゆうべ》も私は寝床に這入《はい》った。
実は雑誌記者が夕方私の所にやって来て
どうでも明日までに原稿を書いて貰《もら》わねば困ると云うのである。
私は徹夜をしてもきっと間に合わせると約束をして其奴《そいつ》を撃退してやったが、
それからすぐ睡《ねむ》くなって、「これぁ不可《いか》ん。こうして
居るよりか、ひとつ夢でも見て詩の良導体になってやろう。」
そう考えながら寝床に這入り、私はそのまま他愛もなく眠ってしまった。
それから何やらごたごたと沢山夢は見たけれど、
今朝《けさ》目を覚ましたら皆忘れていた。
勝手にしやがれ、と私は糞度胸《くそどきょう》を据えて
黒珈琲《ブラック・コオフィイ》を飲みかけようとした途端《とたん》に、こんな事を思いついた。
「己《おれ》の書こうと思っている夢のコントの中では魔法使いの婆さんが
鳥の骨ばかりになった奴にソオスをぶっかけて
そいつを己に食わせやあがったが、
あれはあれでちょっと乙《おつ》な味がしたぞ。
己もひとつその流儀で行こうかしらん。
己のやくざな夢の残骸《ざんがい》にウオタアマン
前へ
次へ
全18ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング