ケっせ」に傍点]とペンを動かしている私の手が痛くて閉口だ。其処《そこ》でいま、ちょっとペンを置いて、葡萄酒《ぶどうしゅ》を一杯ひっかけ、Westminster[#「Westminster」は斜体]を二三本吹かしたところだ。―― Westminster[#「Westminster」は斜体]と云えば、こんな※[#「均−土」、第3水準1−14−75]《におい》など比較にならん位、いましがた私の書いたばかりの夢のなかの※[#「均−土」、第3水準1−14−75]は好い※[#「均−土」、第3水準1−14−75]だったし、これから私の書こうとする夢のなかで私の飲んだ葡萄酒(?)は、こんなトリエスト産の葡萄酒よりもずっと上等な味だった。どうやら夢の中での方が私はずっとましな暮らしをしていると見える。……さて、これから私の書こうとする夢は、私の夢のなかの第二の種類だ。この夢は、唯《ただ》、単調だが底の知れないような、深味のある色(甚《はなは》だ不完全な言い方だがそれはピカソの或る絵のような色なのだ)で塗り潰《つぶ》されていると思っていて頂きたい。
私はこの夢のことを久しく忘れていたが、去年の冬、神戸へ
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