sって Hotel Essoyan[#「Hotel Essoyan」は斜体]という露西亜《ロシア》人の経営している怪しげなホテルに泊った時、ひょっくりそれを思い出した。私がそのホテルのことを写生した「旅の絵」という短篇の中にも登場をするが、そのホテルに一人の美しくなったり、醜くなったりする、変な少女がいて、或る晩十二時過ぎに私がそのホテルに帰って来たら、私の部屋に面している薄暗い廊下のはずれに、そこに二階へ通ずる階段があるのだが、その階段へ片足をかけながらその少女が寝巻のまま立っていて、部屋へ這入《はい》ろうとしかけていた私の方をじっと見ている。……その時突然、この夢が私のうちに蘇《よみがえ》ったのだ。私は気味悪くなって、それっきり自分の部屋に這入ってしまったが、その夢の中では私はもっと大胆だった。
その夢というのは、やはりそんなような怪しげなホテルが背景になっている。少女も出てくる。それはしかしもっと可愛らしい少女であった。……とある山の手の町で、私は一人の少女とすれちがいながら、なんだか私には分らない合図をされた。そんな気がした。そこで私はその少女のあとを追って行った。そうしてそ
前へ
次へ
全18ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング