ネい
椅子やテエブルもちゃんとした位置にある 鉢植も倒れていない
それでいてどう云うものかそれ等《ら》の置き方に妙な不自然さがあるのだ
あちこちへ投げ飛ばされたり、倒されたりしたのをいかにも急《いそ》いで
元のままに直して取り繕ったような不自然さがあるのだ
――そんなことを空想しながら、私はぼんやり頬杖《ほおづえ》をついて
今にも燃えきって無くなりそうな灰皿の吸殻を見つめている
それから発せられている※[#「均−土」、第3水準1−14−75]は私の空想を大いに刺戟《しげき》している
「おれは遅参者だ……一足遅れたばかりに、きっとおれを喜ばせたに相違ない、何かの惨事に立会い損《そこな》った不運者だ」
そこでもって私の夢のフィルムがぴんと切れてしまう……

それで私は読者諸君にも、ただこんな風に
「まだその顰《しか》め面《つら》をしている
今起ったばかりの惨事の古代的な静けさ」を
お目にかけるよりしかたがないのだ
[#ここで字下げ終わり]

     2 鳥料理

 こんなことを書いている分には、頭はすこしも疲れないが、ずんずんひとりで先きへ行ってしまう私の言葉に遅れまいとしてせっせ[#「
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