れはまだ僕のうちでもはっきりとしていない。……
 僕たちはその牝山羊をつれた若い女に追いつこうとして、いそいで泥濘の街道に出て、再び道ばたの雪を拾いながら歩きはじめた。が、そんなことをして漸《よ》うやっと歩いている僕たちは、泥濘のなかをも平気で歩いてゆくその牝山羊をつれた女にもずんずん引き離されてしまった。そうしていつのまにか、また僕たち二人きりにされてしまった。
 そんな調子でいくら歩いていっても、野辺山が原は尽きそうもない。もうかれこれ一時間ぐらいは歩いているだろう。腹もへってきているし、もうおしゃべりをする元気もなく、二人とも泥だらけになった靴をただ重そうに運んでいるきりになった。――そうして僕はもう口には出さずに、昔小さな本で読んだことのあるセガンティニの美しい生涯などを考えつづけていた。セガンティニには、アルプスの高原の自然のなかに――いわば人間の住める自然のぎりぎりの限界のようなところに人間を置いて描いているような絵が多いが、その絵がどれもこれも妙に人なつこい。人間の世界から離れれば離れるほど、そしてそこに描かれてあるアルプスの風景がいよいよきびしければきびしいほどセガンテ
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