大和路・信濃路
堀辰雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)藁屋根《わらやね》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)随分|迂闊《うかつ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#アステリズム、1−12−94]
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樹下
その藁屋根《わらやね》の古い寺の、木ぶかい墓地へゆく小径《こみち》のかたわらに、一体の小さな苔蒸《こけむ》した石仏が、笹むらのなかに何かしおらしい姿で、ちらちらと木洩れ日に光って見えている。いずれ観音像かなにかだろうし、しおらしいなどとはもってのほかだが、――いかにもお粗末なもので、石仏といっても、ここいらにはざらにおる脆《もろ》い焼石、――顔も鼻のあたりが欠け、天衣《てんね》などもすっかり磨滅し、そのうえ苔がほとんど半身を被《おお》ってしまっているのだ。右手を頬にあてて、頭を傾《かし》げているその姿がちょっとおもしろい。一種の思惟象《しゆいぞう》とでもいうべき様式なのだろうが、そんなむずかしい言葉でその姿を
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