林のはずれで別れた。
 僕たちはそれから沈黙がちに、枯木の下を抜け抜け、僕たちの靴に踏まれて凍った土の割れる音を耳にしながら、歩いていった。するともう一つ、ときどき何処かから、それとはちがった、硬い、金属的な幽《かす》かな音が聞えて来た。
「あれは何んの音でしょう?」M君がいぶかしそうに訊《き》いた。
「ああ、あれかい。あれは、君、枯枝と枯枝とが風でぶつかる音だよ。――ほら、ああやってちょっとぶつかるだけでも、ずいぶん鋭い音を立てるだろう。空気がぱりぱりになっているのだね。……」
 そう言いながら、一しょに頭上の梢をみあげていると、絶えずかすかに揺れている枯枝の網を透いて、一めんの星空だった。そうしてその星のひとつひとつが東京なんぞの空で見えるよりかずっと大きく見えた。
 突然、右手の空家の庭の一隅で、がさがさと溜《たま》った落葉がひっかきまわされるような音がきこえた。何か白いものがそこいらをひとりで駈けずりまわっていた。
「ボブ!」僕はそのほうへ声をかけて見た。
 すると、まるでその木魂《こだま》のように、向うの林の奥から「ボブ!」と呼ぶ声がかすかにした。
「いまのは万里子さんらしい
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