淋しくないでしょう。」僕はふいと万里子さんのほうを向いて言葉をかけた。いつのまに台所からはいって来たのか、万里子さんの足もとにはボブが温かそうにうずくまりながら、僕たちの団欒《だんらん》のなかに加わっていた。
「――僕ははじめてここで冬を越すことになったとき、夕方になるといつも淋しくって淋しくってどうしようかとおもうのだけれど、すっかり夜になって火をどんどん焚きはじめると、もうちっとも淋しくなくなったものでしたよ。」
「本当に。」方里子さんは大きい目でしげしげと僕のほうを見かえしながら、深くうなずいた。
それからまた煖炉を前にして、ひとしきりさまざまな話がはずんだ。……
その夜十時過ぎ、僕たちは宿に引き上げることにした。K君たちもそこまでちょっと送ろうといって頸巻《くびまき》をしたり、外套《がいとう》をきたりしだしていた。もういいからとことわっても、一しょに小屋を出た。ボブもあとからくっついてきた。夜の空気は稀薄で、痛いように冷え切っていた。僕たちはあすは何処かもっと山の方――菅平《すがだいら》か、野辺山《のべやま》あたりまで出かけ、妻がこちらに来る頃にまた戻ってくることを約束して
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