ね。静かだなあ。なんだか、こう、ひさしぶりで昔の冬に出逢ったような気もちがしてならないよ。……」
「またこちらで冬をお越しになりませんか?」M君はさもそれが何んでもないことのように言った。
「そういうこともときどきは考えている。……」僕はただそう言ったぎりだった。
僕たちはまた凍った土を踏み割りながら、徐《しず》かに歩き出した。
※[#アステリズム、1−12−94]
翌日。僕たちは朝はやく小諸《こもろ》まで往き、そこから八つが岳の裾野を斜に横切るガソリン・カアに乗り込んだ。もう冬休みになっていても、この山麓地方《さんろくちほう》はあまりスポルティフではないので、乗客は僕たちのほかはみんな土地の人たちらしかった。
南佐久《みなみさく》の村々の間をはじめの一時間ばかりは何事もなく千曲川に沿ってゆくだけだが、そのうち川辺の風景が少しずつ変ってきて、白楊《はこやなぎ》や樺《かば》の木など多くなり、石を置いた板屋根の民家などが目立ちだした。そうしてそれらの枯木だの、家だのの向うに、すっかり晴れ切った冬空のなかに、真白な八つが岳の姿がくっきりと見えるようになって来た。
そうやっ
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