来ていないかどうかと、そうやってもう二週間ぐらいも前から、毎日のようにその女が様子を見にくるのだよ。二三度、僕たちのところにも立ち寄って、何か心配そうに様子をきくので、こっちでもその度に相手になってやっていたが、問い合わせの手紙でも出したらどうかと云うと、ただ首をふっているきりなのだ。もうその家では来ないことが分かっているのだ。それだのにこの頃は一日のうちに二度も三度もやって来るんだ。いつもあの毛皮の外套をきて、紅いベレをかぶって。――そうしてその度に、僕たちの家の中をじいっと見てゆくんだ。それをまた万里子が薄気味わるがってね。……」
「結局、一人でさびしくってしようがないんだな。こっちにいる他の外人とは全然つきあわないのかい。」
「どうもその女だけ除《の》けものにされているらしい。村の人にきくとあの女はしようがありませんと云って、てんで相手にならないんだ。」
「そんななのかい。――僕はどういう素性の女かよく知らないが、夏なんぞその女が奇妙ななりをして、買物袋をぶらさげながらなんだかしょぼしょぼして歩いているのを見かけては、何者だろうとおもっていたんだがね。あれで、この夏聞いたことだが
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