ているんだい。寒いだろう。」
「こないだの雪をお見せしていますの。」万里子さんはボブがもがくのを漸《や》っとおさえつけながら言った。
「雪なんぞはもうありあしないだろう。」寒がりのK君はうちの中でも頸巻《くびまき》をしたままで、小屋から出て来ようともせずに僕たちを促した。「早くはいりたまえ。」
「さっきここの林のいりぐちで、クルツといったかな、あの、変な女を見かけたが、なんだか夏とは見ちがえるような、凄い毛皮の外套を着て、真紅なベレかなんぞかぶって、気どった風に歩いていたが、こんな冬の村に一人きりで何をしているんだろう?」僕は煖炉《だんろ》で体が温まると、突然その不思議な女のことを思いながら言った。
「では、きょうまた見にきたのでしょうか。これで三度目ですわ、」万里子さんは急に目を大きくして、頸巻をしたまま煖炉の火を掻きまわしていたK君のほうを見た。
「なんだかよく来るね。」K君はやっと手を休めながらその話に加わった。「このすこし向うに、十一月ごろまでいた独逸人《ドイツじん》の一家がいてね、それがクリスマス頃になったらまた来るからと云って、一時引き上げていったのさ。――その人達がまだ
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