じと僕の方を見ながら言った。「――でも、もうすっかり雪がなくなってしまっていて。なんだか……」
「いやあ、雪なんぞはどうでもいいですよ。」
 僕はあわてて手をふりながら、それを遮った。
「こないだの雪は午前中ふったきりでしたの。大ぶ積ったことは積りましたけれど、午後から日があたって見る見るとけていってしまうので、あんな手紙なんか出してしまって、気が気でありませんでしたわ。――でも、まだあそこいらには少しばかり残っていますの。」
 もう薄暗くなり出している林の奥のほうにまだいくらか残雪が何かの文様《もよう》のようにみえるのを、万里子さんはすこし気まり悪そうにして示した。
 僕はもうそんなものはどうでもよかったが、すっかり葉が落ちて林の中がどこまでも透いてみえたりするのを珍らしそうに見ているM君におつきあいして、その儘《まま》しばらく三人でそこに立って見ていた。そのうち小屋のかげからボブが飛び出してきた。
「ボブ、駄目よ。……」万里子さんはその人なつこい犬が泥足でもって僕のほうに飛びかかろうとするのを、すばやく捕まえた。
「よう。」K君が小屋の中から首だけ出して僕たちに声をかけた。「何をし
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