な石に腰かけながら浅いながれに目をそそいでいました。なんだか鶺鴒《せきれい》でもぴょんぴょん跳ねていたら似合うだろうとおもうような、なんでもない景色です。それから僕は飛鳥の村のほうへ行く道をとらずに、甘橿《あまがし》の丘《おか》の縁を縫いながら、川ぞいに歩いてゆきました。ここいらからはしばらく飛鳥川もたいへん好い。このまえ五月に君と一しょに歩いたときからよほど僕の気に入ったものと見えます。あのときにはあそこの丘の端に桐の花が咲いていた、このへんの道ばたには一もと野茨《のいばら》の花も咲いていたと、そんな小さな思い出までも浮かんでくる位なのです。……
こんなことをまた書き出していたらきりがありません。もうおもい切ってここいらで筆をおきます。――その日の夕がた、最後のバスに乗りおくれた僕はしようがなく橘寺をうしろにして一人でてくてく歩き出しました。途中で夕焼けになり、南のほうに並んでいる真弓《まゆみ》の丘などが非常に綺麗に見えました。それから僕はせっかくその前まで来ているのだからと思って、菖蒲池古墳のある丘を捜してそこまで上がっていって見ました。が、その古墳の前まで辿《たど》りついたとき
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