うな気のしていた僕は、いつしかまだすこしも知らない大和の国に切ないほど心を誘われるようになって来ました。……

    ※[#アステリズム、1−12−94]

 そういうようにして漸《や》っとはじめて大和路に来た三年前のこと、君と一しょに見た、菖蒲池古墳のことから、つい考えのまにまに思わぬことを長ながと書いてしまいましたが、別に最初からどういうことを書こうかと考えて書き出したわけのものでもないので、これはこれとしてお読み下さい。
 ――でも、最初まあそんなものでも書こうとしかけていた僕のきょうの行程を続けてみますと、そうやって軽のあたりをさまよった後、剣《つるぎ》の池《いけ》のほうに出て、それから藁塚《わらづか》のあちこちに堆《うずたか》く積まれている苅田のなかを、香具山《かぐやま》や耳成山《みみなしやま》をたえず目にしながも歩いているうちに、いつか飛鳥川のまえに出てしまいました。ここいらへんはまだいかにも田舎じみた小川です。が、すこしそれに沿って歩いていますと、すぐもう川の向うに雷《いかずち》の村が見えてきました。土橋があって、ちょっといい川原になっています。僕はそこまで下りて、小さ
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