てあります。

[#ここから2字下げ]
秋山《あきやま》の黄葉《もみぢ》を茂《しげ》み迷《まど》はせる妹《いも》を求めむ山路《やまぢ》知らずも
もみぢ葉《ば》の散りゆくなべにたまづさの使《つかひ》を見れば逢《あ》ひし日|思《おも》ほゆ
[#ここで字下げ終わり]

 丁度、晩秋であったのでありましょう。彼がそうやって懊悩しながら、軽の村をさまよっていますと、おりから黄葉がしきりと散っております。ふと見上げてみると、山という山がすっかり美しく黄葉している。それらの山のなかに彼の愛人も葬られているのにちがいないが、それはどこいらであろうか。そんな山の奥ぶかくに、彼女がまだ生前とすこしも変らない姿で、なんだか道に迷ったような様子をしてさまよいつづけているような気もしてならない。だが、それが山のどこいらであるのか全然わからないのだ。……
 そんなことを考えつづけていると、突然、誰か落葉を踏みながら自分のほうに足早に近づいてくるものがある。見ると、文《ふみ》を挿《はさ》んだ梓《あずさ》の木を手にした文使《ふづか》いである。ふいと愛人の文《ふみ》を自分に届けに来たような気がして、おもわず胸をおどらせ
前へ 次へ
全127ページ中61ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング