、秋篠川に添うて歩きながら、これを往けるところまで往って見ようかと思ったりした。
が、道がいつか川と分かれて、ひとりでに西大寺《さいだいじ》駅に出たので、もうこれまでと思い切って、奈良行の切符を買ったが、ふいと気がかわって郡山行の電車に乗り、西の京で下りた。
西の京の駅を出て、薬師寺の方へ折れようとするとっつきに、小さな切符売場を兼ねて、古瓦《ふるがわら》のかけらなどを店さきに並べた、侘びしい骨董店《こっとうてん》がある。いつも通りすがりに、ちょっと気になって、その中をのぞいて見るのだが、まだ一ぺんもはいって見たことがなかった。が、きょうその店の中に日があかるくさしこんでいるのを見ると、ふいとその中にはいってみる気になった。何か埴輪の土偶《でく》のようなものでもあったら欲しいと思ったのだが、そんなものでなくとも、なんでもよかった。ただふいと何か仕事の手がかりになりそうなものがそんな店のがらくたの中にころがっていはすまいかという空頼みもあったのだ。だが、そこで二十分ばかりねばってみていたが、唐草文様《からくさもよう》などの工合のいい古瓦のかけらの他にはこれといって目ぼしいものも見あた
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