いきりうぶな、いきいきとした生活気分を求めなくっては。……」そんなことを僕は柿を噛り噛り反省もした。
僕はすこし歩き疲れた頃、やっと山裾の小さな村にはいった。歌姫《うたひめ》という美しい字名《あざな》だ。こんな村の名にしてはどうもすこし、とおもうような村にも見えたが、ちょっと意外だったのは、その村の家がどれもこれも普通の農家らしく見えないのだ。大きな門構えのなかに、中庭が広くとってあって、その四周に母屋も納屋も家畜小屋も果樹もならんでいる。そしてその日あたりのいい、明るい中庭で、女どもが穀物などを一ぱいに拡げながらのんびりと働いている光景が、ちょっとピサロの絵にでもありそうな構図で、なんとなく仏蘭西《フランス》あたりの農家のような感じだ。
ちょっとその中にはいって往って、女どもと、その村の聞きとりにくいような方言かなんかで話がしてみたかったのだけれど、気軽にそんなことの出来るような性分ならいい。僕ときたひには、そうやって門の外からのぞいているところを女どもにちらっと見とがめられただけで、もうそこには居たたまれない位になるのだからね。……
気の小さな僕が、そうやって農家の前に立ち止
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