がついた。ためしにそれをちょっと手でもち上げて見ると、小さな窓のような工合になる。僕はこれはいいとおもって、そこに目を近づけると、ちょうど村の一番最後の家らしい、なかば雪に埋もれた一軒の茶店のようなものが通り過ぎた。ちょっとの間だったのに、もうそうとう雪が深そうだ。
 そのうちにあちこちの森だの山だのが見えて来る。細かい雪がいちめんにふりしきっているので、それもほんの近いものだけしか見えなかったが。……それでも、僕は自分が生れて初めて見るような雪の山のなかにはいり出していることを感じだしていた。だが、そうやって外ばかり眺めていると、そこから細かい雪がたえず舞いこんでくるとみえ、膝のうえの毛布がうっすら白くなっている。僕はその毛布を軽くはたきながら、すこし坐りなおして、しばらく目を休めることにした。なんにも見えなくとも、自分の身体のかしぎかたで、上りが急になったり、また、すこし楽になったりしてゆく工合がよく分かる。なんだか自分の不安定の感じが或る度を過してくると、橇のほうもいつか止まってしまっている。馬が息をつくためにしばらく休むのである。雪の中にぽつんぽつんと立っている樹木なんぞを見て
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