のなかはまあ二人で差し向いに腰かけるのがやっと位だが、そこには座蒲団《ざぶとん》や毛布から、火鉢の用意までしてある。火鉢には火もどっさり入れてある。――寒いから、その火鉢に足をのせて、その上からその毛布をかけよと云ってくれる。そう云うとおりに、僕がそこにあった毛布をひろげて膝の上にかけ出すのを見とどけると、馭者は幌をすっかり下ろして、馬のほうへ飛んでいった。

    ※[#アステリズム、1−12−94]

 やがて雪橇はごとんごとんと動き出した。あまり揺られ心ちのいいものではなかった。それに幌には窓が一つもついていないので、全然おもての景色の見られないのが何よりの欠点だ。――このままこうしてごとんごとんと揺られながら、毛布の中に小さくなっていたんでは、いくら寒さはしのげても、なんにも見えず、わざわざ雪のなかまでやってきたかいがない。そこで幌を少しもち上げてみたが、その位のことでは、道ばたに積みあげられた雪のほかは何んにも見えない。……
 が、さっきから首すじがすこし寒いとはおもっていたが、そこのところだけ幌の布がなんだか綻《ほころ》んだようになっていて、ひらひらしているのにはじめて気
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